●ネクタイを締めてくれた優しいおじさん
さて、今でこそ30秒以内で締めることができるようになったネクタイですが
締め方の分からない時期がありました。
19才の頃、遊ぶ金欲しさ(犯行動機?)のバイトの面接へ行く途中、
そのバイトの性質上 背広で行こうと考えて、シャワー浴びた後 服を着
ネクタイを締めようとしたんだけど一向に締め方が分からない。
玄関の鏡の前で10分以上試行錯誤したあげく、結局分からず
電車の時間を気にしてノーネクタイのまま駅に来てしまった。
さて、駅のホームでもカバンからネクタイを取り出して試行錯誤するが
やっぱり分からないし、しかもここには鏡もない。
ホームを見わたすと、背広を着 ネクタイ締めた50才くらいのおじさんがいた。
「しめた!」
真知宇(おじさんに近づき少し勇気をもって):「すいません・・・」
おじさん:「うん?(妖しいのが近づいてきたなという感じ)」
真知宇:「あのー、僕 今から面接なんですけど・・、(ネクタイを取り出して)
ネクタイの締め方が分からないんで」
おじさんは吹きだした。そして笑いながら真知宇の手からネクタイを取り、
真知宇のカッターシャツの襟を立て、ネクタイを巻きながら
おじさん:「いやー、わしも他人のネクタイ締めるのは初めてや。
よく嫁さんには締めてもらうけど」
その言葉通り、おじさんは正面から他人のネクタイを締めるのには失敗した。
おじさん:「違うな〜」
と一度締めたネクタイをほどく。
おじさん:「こっち向いてみい」
おじさんは真知宇の背後に回り、自分のネクタイを締めるが如き方向から
締めてようやく成功した。
おじさん:「よし」
おじさんは、また真知宇の正面に回って確認する。
真知宇としては ちゃんと締めてあるという感じなのだが
おじさんとしては まだ細かい所に こだわっていて
「ここ(締めた部分)が綺麗に三角にならなあかん」
とか
「ここ(締めた部分のすぐ下)に えくぼ(谷間)ができなあかん」
などと不満な様子。
そうこうしているうちに電車が来て
「ありがとうございました」と別々の車両に乗り込んだ。
今でもネクタイを締める時(特に失敗すると)
時々この優しきおじさんのことを思い出す。